中村研究室

1.有価物資源化のための高度分離プロセスの開発


「分離技術」は環境問題、資源の有効利用、人類の生命維持のための研究へと広がっている。たとえば我々の生活の身近な事例では、排水、排ガス中からの有害汚染物質の除去、産業廃棄物からの再利用可能な資源の回収、血液中からの老廃物除去があげられる。今や産業プラントの50~60%が分離にかかるコストであり、例えば、医薬品、食品、プラスチック製造プロセスなどでは不純物である副生成物の除去がプロセスの命運を握っている。このように「分離技術」はありとあらゆるところで利用されるとても重要で不可欠な操作である。その一端を担うのが「吸着・イオン交換」を利用した高度分離技術であり、様々な有価物を選択分離して、資源化するための最も期待される技術である。この技術を利用して、環境、ナノ、バイオ、メディカル等様々なシステムに利用できる新しい高度分離プロセスの開発を目指して基礎から応用までの研究を進めている。




2.超臨界・亜臨界処理を利用した有機性廃棄物の資源・エネルギー化、物質合成


亜臨界水は臨界点を超えない範囲の高温高圧水であり、通常の水と比較するとイオン積が非常に大きいため、加水分解力が非常に強い水である。したがって、酸化力の強い超臨界水とは異なり、亜臨界水処理を行うことにより有機性廃棄物を高速分解、低分子化が可能になる。また誘電率は、温度上昇に伴って低下し、473~573 Kの亜臨界水領域では常温のメタノールやアセトンの値とほぼ同じになる。すなわち、水でありながら油のような溶解力を示すので、疎水性の物質も比較的高濃度で溶解、抽出させることができる。この技術を利用して、様々な有機性廃棄物から有用物質を生産したり、物質合成を行う研究を進めている。




3.人工透析膜におけるタンパク質の相互作用と吸着特性の解明


血液透析療法は医療行為の一つであり、透析膜を用いて腎臓の機能を人工的に代替し腎不全患者の治療を行うものである。透析膜を用いた基本的物質除去メカニズムは拡散(透析)と濾過であり、血液中から不要なクレアチン、尿酸、β2-ミクログロブリン等の老廃物を除去しており、現在では、膜素材を改良し、血中の不要な物質をより効率的に取り除く研究が行われている。そのなかでもPMMA(ポリメチルメタクリレート)膜は 東レ(株)製の内表面から外表面まで均一な均質構造を有する合成高分子膜で、他の透析膜と異なり、不要物質を限外濾過だけではなく吸着によって分離する優れた特徴を持つ。中・大分子量物質の除去性能が高く、特に除去が難しいとされている透析アミロイド症を引きおこすβ2-ミクログロブリンの吸着に優れている。しかしながら、β2-ミクログロブリンのPMMA膜への吸着メカニズムは明らかになっていない。PMMA膜へのタンパク質の吸着メカニズムを明らかにすることで、より効率的な老廃物の除去が可能になり、透析時間の短縮、患者への負担が軽減することなどが期待される。本研究ではこの吸着メカニズムを明らかにするために、β2-ミクログロブリンと同程度の分子量を有するリゾチームおよびNaOHで変性させたリゾチームを用いて、タンパク質と膜との相互作用や吸着特性の検討を行う。特に、正常なリゾチームに加え、異なる表面特性を有する変性リゾチームを用いることで、PMMA膜吸着への立体構造などの寄与を明らかする。



 

林研究室

1.物理化学的特性に基づいたテーラーメイド薬剤カプセルの開発
-両親媒性物質を用いた自己集合体のデザインとDDSへの応用-


両親媒性物質はミセル,ベシクル,エマルションなど様々な種類の自己集合体を形成することが知られている.これらの自己集合体は構造依存的な物理化学的特性を有しており,薬剤カプセルとして応用した場合,異なる特性を示すことを報告している(Colloids Surf. B152, 269-276 (2017)).例えば,構造が類似する両親媒性物質から構成された自己集合体であっても,ミセルが非常に動的な構造を有しているのに対し,ベシクルは安定した構造を有している.これら構造依存的な特性は薬剤封入や漏出,血中での安定性,細胞への薬剤送達効率など薬剤カプセルとしての機能と密接に関係していると考えられる.我々はこれら自己集合体の特性をパラメータ化し,薬剤カプセルとしての機能の関係性をデータベース化することで,各疾患や目的(治療や診断)に適した薬剤カプセルのデザイン,所謂テーラーメイド薬剤カプセルへの検討を行っている.